ヒートショックより危険!? 冬の熱中症にご注意!

11月26日は「いい風呂の日」……ですが、浴室は家庭内で事故が起こりやすい場所のひとつだってご存知でしたか? 以前から「冬のお風呂では、ヒートショックに注意!」と言われてきましたが、冬場の入浴中の事故には、ほかにも原因がありそうなんです。

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入浴中の急死者数は年間1万9000人!?

寒~い冬に、温かいお風呂に浸かる……なんとも幸せを感じる瞬間ですが、冬のお風呂は気持ちがよい一方で、危険なものでもあります。東京都福祉保健局が2020年10月1日に発表した「東京都23区における入浴中の死亡者数の推移」によると、2019年に東京で入浴中に死亡した人の数は1494人。月別に見ると、半数近く(728人)が12月~2月に集中していました。

また、過去には厚生労働省の研究班が、入浴中の事故死数を年間約1万9000人と推計しています(「入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究 平成24~25年度総合研究報告書」)。こうした冬のお風呂での事故原因として、取り沙汰されるのが「ヒートショック」です。

ヒートショック……だけが原因じゃない?

ヒートショックとは、温度差により血圧が大きく変動することで、体にダメージを負う現象。

たとえば、暖かいリビングから冷えた脱衣所へ行って服を脱ぐと、寒さで体熱を逃がさないように、血管がキュッと縮んで血圧が上がります。さらに温かい湯船に浸かると、今度は熱を放出しようと血管が一気に広がり、急激に血圧が下がってしまうのです。

こうした急な血圧の変動は、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こすことも。入浴中に失神すると、そのままおぼれてしまう危険がありますし、湯船から出ようとしたときに立ちくらみを起こして転倒し、床や浴槽に頭をぶつけて……ということだってあるのです。

ヒートショックは温度差が原因で起こるため、対策としては「浴室や脱衣所を事前に暖めておき、温度差を小さくすること」「お風呂のお湯の温度を低めにすること」「いきなり湯船に入らず、かけ湯をすること」などがあげられます。

入浴中の事故、とくに高齢者の死亡事故は、メディアなどで繰り返し取り上げられたこともあり、このヒートショックが主な原因だと一般的に考えられています。

ところが、この定説に異を唱えたのが、千葉科学大学 健康管理センター所長の黒木尚長教授です。黒木教授は、2018年に発表した「入浴事故の危機管理:なぜ、入浴事故が起こっているのか」のなかで、
高齢者の入浴中の事故の大半は熱中症で説明できる
と主張しています。

寒い冬に「熱中症」?

「熱中症=夏」と思う方が大半のはず。改めてご説明すると、熱中症とは、暑さに体が適応できずに起こる諸症状の総称。簡単に言えば、高くなった体温に体が耐えられなくて起こる、さまざまな症状のことです。

厚生労働省の「熱中症診療ガイドライン2015」によると、熱中症はその重症度で大きく3つに分類されます。
【I度】
めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、手足のしびれ・気分の不快

【II度】
頭痛・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感

【III度】

【II度】の症状に加え、意識障害・けいれん・手足の運動障害、高体温、肝機能異常、腎機能障害、血液凝固障害
こうした症状は、I度→II度→III度と、段階を経て現れるわけではありません。頭痛や嘔吐、判断力の低下などの症状が突然出て、救急搬送されるケースも多いとか。とくに高齢者では、前触れもなく意識障害に陥ることもあるそうです。

で、なぜ冬に熱中症になるかと言うと……もうおわかりですね、お風呂です。

リンナイの「『入浴』に関する意識調査」(2018)によると、半数以上(57.9%)の人が、冬場の自宅浴槽の温度設定を41℃以上としていました。ところが、先出の「入浴事故の危機管理」によると
●41℃以上の湯に30分以上全身浴で浸かると、体温は概ね40℃まで上昇する。
●体温が40℃まで上昇すると、入浴中であってもIII度熱中症の症状が生じやすいとされる。
というのです。さらに黒木教授は別の報告書でも、「42℃以上の湯に全身浴で30分以上浸かると深部体温が3℃上昇して誰もがIII度熱中症になり、意識を失う」「深部体温が42℃以上になると心筋が崩壊し高カリウム血症となり心室細動を起こし急死する」としています。そう、冬のお風呂が危険なのは、高齢者だけではない(※)のです。

※ちなみに、高齢者の入浴中の事故が多い理由として、黒木教授は「高齢者では神経系の老化の影響で、のぼせにくく症状が出にくい。また、風呂が熱いと感じないから長時間風呂に浸かっていられる」ことをあげています。

冬の浴室内熱中症を防ぐポイント

なんだかお風呂が怖くなりそうな話ですが、入浴は体を清潔にするだけでなく、疲れを癒やし、手足の末端まで温める、一日の締めくくりに最高のイベント。よい睡眠のためにも、毎日お風呂に入ることがおすすめです。そこで、冬の入浴時の熱中症を防ぐポイントをまとめました。
●湯温は40℃以下、湯船に浸かる時間は10分以内で。
●長時間入浴するときは、ぬるめのお風呂(38℃前後)で半身浴を。
●体調不良時や食事・飲酒後、薬(睡眠薬など)の内服直後は入浴しない。
冷え性の人は、短時間の入浴でもお風呂上がりにポカポカが持続する、炭酸入浴剤薬用入浴剤を使用するのがおすすめ。また、入浴前にはきちんと水分を摂り、お風呂上がりにはハイポトニック飲料や経口補水液で、汗とともに失われたミネラルや水分を補給しましょう!
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