『■X』の系譜(その1)――市販薬の不思議

たとえば「ラクナールンDX」。そんな薬の名前、ありそうですよね。でも、そのアルファベット2文字の意味は? 市販薬でよく見る“■X”というネーミングを掘り下げる問題作。名前に隠されたメーカーさんのヒミツを白日のもとに――おっと、誰か来たようだ。

目次

「見せてもらおうか、“■X”医薬品の性能とやらを!」

医薬品関係で“RX”といえば処方せんのことですが(連邦の白いアクマではなく)、ではDXやEXは? そのほかにも品名に“■X”がついた薬というのはいろいろある模様。
そこで、アルファベット順に並べて見て、その由来などを独断と偏見で“憶測”していきましょう。26文字もあるので、劇場版3部作風に分割でお送りします!
なお、医薬品名は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)「一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索」調べです(2020年5月1日時点)。

【AX】なぜか痔の薬が半数を占める(17件)

「AX」で検索すると、以下のような商品名の登録がありました。
・パブロンエースAX(かぜ薬)
・ヂナンコーハイAX(痔の薬)
・ザッスルAX(痔の薬)
・チールAX(肩こりの塗り薬)
・コンドロビーAX(ビタミン剤)  など

アルファベット最初の文字として、いろいろ使われているようです。
なぜか痔の薬が多く、調査したなかで剤形別に7種類も存在していました。
「パブロンエースAX」(大正製薬)は、おそらく配合成分の「アンブロキソール(Ambroxol)」が由来だと思われます(現在は改廃によってメーカーサイトは失われています)。
 

【BX】PMDAに登録なし(0件)

“BX”はPMDAに登録された商品には見つかりませんでした。2番手というのは人気がないのでしょうか。
 

【CX】少ない(2件)

わずか2件のヒットです。
・ヒストミンせき止めCX(せき止め)
・スピール膏CX(たこ・うおのめ薬)

「ヒストミンせき止めCX」(小林薬品工業)には、たん切りの「カルボシステイン(Carbocisteine)」が配合されていますから、これが由来かもしれません。
「スピール膏CX」(ニチバン)は、「いぼ(callus)」由来の可能性があります。
 

【DX】100品超えのボリュームゾーン(106件)

“DX”はさまざまなカテゴリー、メーカーにわたって広く利用されています。
・アスパラドリンクDX(ドリンク剤)
・イブクイック頭痛薬DX(解熱鎮痛薬)
・エアーサロンパスDX(スプレーの湿布)
・エクトールDX(下痢止め)
・スマイル40 プレミアムDX(目薬)
・ダマリンパウダースプレーDX(水虫の薬)
・オイラックスDX軟膏(かゆみ止め)
・新ルルAゴールドDX(かぜ薬)
・ヒストミンせき止めDX(せき止め)  など

この名称が付される医薬品の多くは、同じ商品ラインのなかで高級・高性能なものになっています。
たとえば、「ヒストミンせき止めDX」(小林薬品工業)は「ヒストミンせき止めCX」(小林薬品工業)よりも配合成分の数が多くなっています。こうしたことから、由来としては「デラックス(deluxe)」が考えられます。
なお、なかには「オイラックスDX軟膏」(第一三共ヘルスケア)のように、主成分のステロイド成分「デキサメタゾン(Dexamethasone)」由来と考えられるものも見られました。塗り薬で「DX」になっているものはこれが由来の可能性が高いです。
 

【EX】最大派閥の300品超え(308件)

“EX”を冠する製剤も、かぜ薬から漢方薬、歯磨きペーストまで、実にバラエティーに富んでいます。
・ルルアタックEX(かぜ薬)
・「クラシエ」漢方葛根湯エキスEX錠(漢方薬)
・アリナミンEXプラス(ビタミン剤)
・ムヒアルファEX(かゆみ止め)
・のどぬーるスプレー EXクール(のどスプレー)
・G・U・MメディカルペーストEX(歯磨き)
・イブA錠EX(解熱鎮痛薬)
・サンテメディカルガードEX(目薬)
・クラリチンEX(鼻炎薬)  など

EXの語源としては、「extra:企画外の」「extreme:極度の」「expert:専門家、達人」など、とにかく「すごい」という意味合いが考えられます。
商品を見てみると、通常よりも主成分の量が多い「イブA錠EX」(エスエス製薬)や、配合できる成分の数を限界まで増やした「サンテメディカルガードEX」(参天製薬)などの高機能なものがあるほか、「のどの痛いかぜに」という訴求の「ルルアタックEX」(第一三共ヘルスケア)のように、ある機能に特化した訴求のものなどがあり、「EX=上級で効果が高い」イメージによるネーミングなのは間違いなさそうです。
また、「クラリチンEX」(大正製薬)のような「1日1回で効く」薬の場合、「extend:延長する」という意味もあてはまりそうです。

【FX】カテゴリーが限定されている(40件)

比較的数が多い“FX”。40品中、半数近い17品が目薬で、それらは「クールタイプ」です。
・サンテFXネオ(目薬)
・パスタイムFX7(貼り薬)
・アレグラFX(鼻炎薬)
・キズリバテープFX(絆創膏)
・ルルアタックFXa(かぜ薬)  など

これは、1991年に「サンテFX」(参天製薬)が発売され、クール系目薬が一世風靡したことが由来となっていると考えられます。なお、参天製薬さんのブランドサイトでは“10(X)”個の“F”で始まるキーワードについて解説されています。
次いで多いのが貼り薬の8品。その主成分は「フェルビナク(Felbinac)」なので納得です。
「アレグラFX」(久光)は主成分の「フェキソフェナジン(Fexofenadine)」由来でしょう。この成分を配合した鼻炎薬7品が「FX」になっています。
5品あったのが「キズリバテープFX」(共立薬品工業)のような絆創膏です。
「ルルアタックFXa」(第一三共ヘルスケア)は、「発熱に着目」がコンセプトですので、「発熱(fever)」が由来ではないでしょうか。
以上のように、「FX」は数が多いながら、目薬、貼り薬、鼻炎薬、絆創膏と、比較的限定されたカテゴリーで使用される傾向があることがわかりました。
 

【GX】オールラウンド?(17件)

さほど多くない17品のヒットですが――
・クールワンせき止めGX(せき止め)
・かぜ薬トピックGX(かぜ薬)
・ヘパリーゼGX(滋養強壮剤)
・ムヒソフトGX(乾燥肌の塗り薬)
・リドベートGXゲル(かゆみ止め)
・パルグランGXクリーム(水虫薬)
・ミラクンGX(殺虫剤)
・ラクナールGX(ビタミン剤)
・ロキソプロフェン錠「GX」(解熱鎮痛薬)  など

このまとまりのなさ。配合成分との関連性も見えず。
全般的なカテゴリーに利用されているからって「general:全般」というわけにもいきません。
逆に考えて、とにかくGXの汎用性は「Greatですよ」ということで、おあとがよろしいようで。

第2部 「I・製品ナシ」篇へ続く