「BBQで食中毒」 危ない! ただ刺して焼くだけで

命がけのBBQ―― そんなバカな、と思わないでください。実際に命にかかわった例もあるのです。下痢などを起こす食中毒の多くは、細菌やウイルスによる感染性のものですが、それ以外にも、自然に存在する毒、その名も「自然毒」が食中毒を引き起こすことがあります。そこで、間違えてはならない、手を出してはならない自然界の毒について知っておきましょう。

目次

その草花が危ない!? バーベキューは食材に注意

――自然に囲まれたなかで、気の合う仲間とバーベキュー。
そんな楽しいはずのイベントで、大変なことが起こってしまったようです。

いったい、何を間違えたのか、何を口にしてしまったのか…。
当事者の証言から探っていきましょう。



「その日は、仲間でキャンプをしていたんです」
「で、昼はBBQってことになるじゃないですか」
「それがまさか、あんなことになるなんて…」
 

キノコ

「最初に料理したのはキノコです。ナメコヒラタケでした」

「はい、ちょっとキノコは怖いかな? と思ったんですけどね…ナメコとヒラタケだと言われて納得して。醤油仕立てでキノコ汁にしたんです。出汁はキノコがあるから軽くとって、豆腐と大根、たっぷりのネギで。鷹の爪を入れると、ひと味違いますよね」

※写真はイメージです

<取り違えてはいけない>
ナメコ ⇒[毒]ニガクリタケ:食後3時間程度で、強い腹痛、激しい嘔吐、下痢、悪寒などが現れる。重症の場合は死亡することもある。

ヒラタケ ⇒[毒]ツキヨタケ:食後30分~1時間程で、嘔吐、下痢、腹痛などが現れる。幻覚・痙攣を伴う場合もある。
 

野草(1)

ウルイニリンソウは、天ぷらにしました」

「おひたしもいいみたいですね。ウルイは食感がよく、ほんのりと苦味があって。ニリンソウはあっさりした味ですが香りが立って楽しめると。でも、大きなグリルで火をおこしていたので、揚げ物をやろうってことになって。クセのない味を楽しめる薄い衣で、揚げたてを、抹茶塩で」

トリカブト

<取り違えてはいけない>
ウルイ ⇒[毒]バイケイソウ:嘔吐、下痢、手足のしびれ、めまい等の症状が現れ、死亡することもある。

ニリンソウ ⇒[毒]トリカブト:食後10~20分以内で、口唇、舌、手足のしびれ、嘔吐、腹痛、下痢、不整脈、血圧低下、痙攣、呼吸不全に至って死亡することもある。

野草(2)

「それから、ギョウジャニンニクニラが手に入ったんです」

「どっちも食欲をそそる香りで、いろいろレシピも広がりますよね。ベタですけど肉と炒めたら旨いな、と思ったらテンション上がって。ええ、もちろんフライパンは用意していたので、脂身の旨い豚バラ肉を、表面がカリカリになるくらい炒めたところに、ギョウジャニンニクとニラを加えて、酒少々とオイスターソースに塩コショウで味を調えて。香り付けにゴマ油を、隠し味はハチミツです」

スイセン

<取り違えてはいけない>
ギョウジャニンニク ⇒[毒]イヌサフラン:嘔吐、下痢、皮膚の知覚減退、呼吸困難。重症の場合は死亡することもある。

ニラ ⇒[毒]スイセン:食後30分以内で、吐き気、嘔吐、頭痛、下痢、流涎(りゅうぜん)、発汗、昏睡、低体温など。
 

樹木(1)

「肉はいろいろと用意しました。牛肉は何種類かの部位をそろえて、ソーセージも各種。で、BMS12のB5牛のカルビを、焼き肉風に焼きながら食べました。タレは市販のものでしたけど、それはそれで安定の美味しさですね。もちろん、食あたりしないように、肉を焼く箸と食べる箸は使い分けましたよ。そのへんは抜かりないです」

「ちょうどエゴマの葉が付いていたので、それで巻いて、本格的な焼き肉になりました」

アジサイ

<食べてはいけない>
エゴマ、シソ ⇒[毒]アジサイ(葉):嘔吐、吐き気、めまい等。実際は取り違えて食べることはまずないが、料理の飾り用として提供されたアジサイの葉を食べて中毒を起こした例がある。
 

樹木(2)

「あとは、定番の串焼きバーベキューです。いろどりよく、牛肉にタマネギ、ズッキーニ、パプリカは赤と黄色を串に刺して。ええ、パイナップルは賛否両論あると思います。火の通りが違うから、焦げないように焼くのにコツがいるんですよね」

「ところが…準備するときに、肝心の串を忘れたことに気付いて。それで、近くに生えていた木の枝を切って使ったんです。綺麗な花が咲いていましたね」

「そうそう、箸としても使って割り箸を節約しました。やっぱり、環境のこととか考えるじゃないですか」

キョウチクトウ

<食べてはいけない>
[毒]キョウチクトウ:疝痛、下痢、頻脈、運動失調、食欲不振など。死亡することもある。実際に海外で、キョウチクトウの枝を串にして焼いた肉で死亡した例や、箸として利用して食中毒を起こした例がある。
 

果実

「デザートは、やっぱり焼きマシュマロで盛り上がりました。スモア風にしてみたりして。あとは、くりぬいたリンゴにバターと砂糖を詰めて、ホイルで包んで焼いたり。それ以外にも、木の実がたくさん採れたので、みんな喜んでいました。木イチゴとかコケモモ、アケビとか…」

「あとは、キャンプ場の周りにあった木にたくさんなっていた赤い実。甘くて美味しいんですけど、真ん中に種があって。イチイチ出すのがめんどくさいから、そのまま種も飲んじゃいました

イチイの実

<食べてはいけない>
イチイ([毒]種子):心拍数減少、体温低下等。死亡することもある。果肉には毒性がなく、甘く、そのまま食用になるが、誤って種を飲み込むことで中毒症状を起こす。

よく焼いても油断大敵! 海の自然毒

「そうですか。あれも、それもよくなかったんですね…」
「山はしばらくやめておきます。やっぱりバーベキューは海辺ですよ」
「魚をつかまえたり、貝をとったり。もちろん、食あたりなんてしないように、ちゃんと火を通します」


――ここまでの証言から、何が間違っていたのかがわかってきました。
しかし、どうやらまだ、自然毒の危険に対する理解は不十分なようです。

そこでここからは、海に潜む自然毒についても見ていきましょう。

 

動物性の食中毒は、海が危ない!

陸上にも、ヘビやハチなどの有毒動物がいますが、これを食べて食中毒が引き起こされることはまずありません。
動物性の自然毒による食中毒は、ほぼ魚貝類によるものなのです。
これは、海の自然毒の多くが、火を通しても毒性がなくならないことが要因となっているのでしょう。

魚介の毒でよく知られるのはフグ毒ですが、それ以外にもさまざまな種類があり、また、魚だけでなく貝類も、かなり強力な毒をもつ場合があります(貝がフグ毒をもつことも!)。

さらに難しいのは、魚の部位によって危険性が異なることや、同じ貝でも、毒があったりなかったりすることです。

一般に販売されているものは、有害なプランクトンの監視などで安全性に配慮されたものですから、そうした“食材”となって流通しているものを口にするようにしましょう。
<魚介類の自然毒の例>
 ⇒ヒスタミン、シガテラ毒、フグ毒(テトロドトキシン)、パリトキシン、過剰なビタミンA(魚の肝)

二枚貝 ⇒麻痺性貝毒、下痢性貝毒、記憶喪失性貝毒、神経性貝毒、アザスピロ酸

巻貝 ⇒唾液腺毒(テトラミン)、フグ毒、光過敏症
  

まとめ

・食中毒を起こす“自然毒”をもつ動植物が、陸にも海にも存在することを認識し、注意する。

・「天然100%だから安心」「自然由来だから体にやさしい」などと思ってはならない。

・食中毒だと思われる場合は、市販薬で対処せず、すみやかに医療機関を受診する。

※文中の事例はフィクションです。毒性等は実際の例を参考にしていますが、採取シーズンや採取場所などについては、実際の状況と相違する場合があります。

<参考>
「食中毒」(厚生労働省)
「自然毒のリスクプロファイル」(厚生労働省)
「有毒植物による食中毒に注意しましょう」(厚生労働省)
「間違えやすい有毒植物」(東京都福祉保険局)