緑茶は新型コロナウイルスに効く?【デマに踊らされないための基礎知識】

5月になりましたが、いまだ終息する気配の感じられない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。ネットでは「新型コロナウイルスに効く!」という、健康食品や健康器具などの怪しげな広告を見かけることも。そういえば「緑茶には抗ウイルス効果がある」なんて聞いたことがありますが、本当なんでしょうか?

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緑茶ってウイルスに効きそうな気がしません?

消費者庁は3月27日、「新型コロナウイルスの予防効果がある」などのWeb広告を出していた34事業者41商品に対して改善要請等を行ったと発表しました。問題となった表示を見ると、「緑茶カテキンの抗コロナウイルス作用」「緑茶に含まれるカテキン類が新型コロナウイルスに」という文言が。

今ではすっかり身近な緑茶ですが、昔は薬として用いられていたそうです。また、現代でも医療用医薬品には、チャノキの葉から抽出したシネカテキンスを主成分とする軟膏(皮膚科用薬)があります。そういえば「お茶でうがいをするとかぜをひかない」なんて話を聞いたことも……。

調べてみると、茶葉には興奮作用や眠気を覚ます効果で知られるカフェインリラックス効果をもたらすとされるテアニン抗酸化作用があるというビタミンC、そして、抗酸化作用抗菌作用をはじめ、さまざまな作用をもつとされるカテキン類などが含まれているようです。

……あれ? なんだか緑茶って、ウイルス感染症の予防に効果がありそうじゃないですか。

緑茶の“成分”はインフルエンザウイルスを抑制する

「緑茶はウイルスに効くか?」を考えるとき参考になるのが、お茶飲料のリーディングカンパニー伊藤園と、静岡県立大学薬学部の共同研究による「緑茶成分によるインフルエンザ予防」というレポート。

ざっくりまとめると、緑茶に多く含まれるエピガロカテキンガレート(以下EGCg)というカテキンは、インフルエンザウイルスの感染力を抑制する、という内容です。また、同じく緑茶に含まれるストリクチニンというポリフェノールには、インフルエンザウイルスの増殖を防ぐ作用があり、EGCgの効果を上回る感染抑制力があることが判明した、と書かれています。

では、緑茶成分(EGCg)は、どうやってインフルエンザウイルスの感染力を抑えるのでしょうか。昭和大学医学部の島村忠勝教授の講義によると、こういうことのようです。

・インフルエンザウイルスはエンベロープという膜で覆われており、その表面には、細胞へ侵入するとっかかりとなる、スパイクという突起がある。

・EGCgはスパイクにくっつき、インフルエンザウイルスが細胞に侵入できないようにする。
なお、インフルエンザウイルスには大きくA型、B型、C型の3種類があり、さらにA型には144種類、B型には2種類の亜型が存在しています。ところが、EGCgはウイルス表面のスパイクを捉えて細胞への吸着を抑えるという仕組みなので、インフルエンザの型に関係なく、予防効果が期待できるようです。

【期待】ひょっとして、緑茶は新型コロナウイルスに効く?

さて、感染拡大の続く新型コロナウイルス。その名の由来は、ウイルスを包むエンベロープの表面にスパイクがたくさん生えており、王冠(ラテン語でcorona)のように見えるからなんだとか。

むむむ、「エンベロープ」「スパイク」

さらに話は変わって4月15日、経済産業省の要請を受けた製品評価技術基盤機構(NITE)は、新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価を行うことを発表しました。消毒用エタノールなどが不足するなか、一般家庭で入手できるもののなかから、新型コロナウイルスの消毒に役立つものを見つけ出そう、という試みです。

その「第1回委員会の議論のまとめ」には、気になる文章が。

代替使用が可能なウイルスとして、A型インフルエンザウイルスを用いて直ちに検証試験を実施する。A型インフルエンザウイルスは、新型コロナウイルスと同様にエンベロープを有するRNA型ウイルスに分類されることから…(後略)
緑茶の成分はインフルエンザウイルスを抑制する。
→インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスは構造が似ている。
→ひょっとして、緑茶は新型コロナウイルスに効く!?

おお、なんだかドキドキしてきた! 
……と盛り上がってきたところで、次のページへ!

【結論】「緑茶」は新型コロナウイルスに効かない

……はい。結論から言ってしまうと、
1.緑茶が新型コロナウイルスに効くというエビデンス(証拠、根拠)はない。

2.仮に緑茶の成分が新型コロナウイルスに効くというエビデンスがあっても、「ふつうの緑茶」に新型コロナウイルスの予防効果があるとは言えない。
ということなのです。順を追って説明しましょう。

1.緑茶が新型コロナウイルスに効くというエビデンス(証拠、根拠)はない。

NITEが、新型コロナウイルスの代わりにA型インフルエンザウイルスで検証する理由は、
直ちに新型コロナウイルスによる検証試験を行うことが望ましいが、実施に当たり相応の期間を要すると考えられるため
という、あくまでも緊急対応。その数行あとには「並行して、新型コロナウイルスによる検証試験の準備を進める」と書かれています。

国の要請で研究を行う施設であっても、新型コロナウイルスでの検証試験には時間が必要な状況。つまり緑茶に限らず、現在、新型コロナウイルスを使って検証試験を行い、「効果がある」と実証された(エビデンスのある)商品なんて存在しないのです。

ちなみに、国立健康・栄養研究所の「『健康食品』の安全性・有効性情報」内にある、「新型コロナウイルス感染予防によいと話題になっている食品・素材について (更新中)」というページにも、1行目に
現時点で、新型コロナウイルスに対する効果を示した食品・素材の情報は見当たりません。
と書かれています。

2.仮に緑茶の成分がコロナウイルスに効く、というエビデンスがあっても、「ふつうの緑茶」にコロナウイルスの予防効果があるとは言えない。

よく勘違いされるのが、その食品の成分が病気などに効いたとしても、その食品自体が病気などに効くわけではない、ということ。食品が効くかどうかを調べるには、含まれる成分ではなく、食品そのもので臨床試験をする必要があるのです。

先の伊藤園のレポートも、よく読むと
緑茶(緑茶成分)を摂取することにより、インフルエンザに感染するリスクが下がる可能性が示されました。
と書かれています。あくまで「可能性が示された」だけ。極端な話、緑茶そのもので臨床試験をしてみたら、「1日50L飲めば効果がある」なんて結果になるかもしれないのです。

さらに、もう一つ問題があります。

「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)により、体の特定の部位に作用を及ぼしたり、病気の治療、予防などの効能・効果があったりするものは、「食品」ではなく「薬」だと定められています(※)

つまり、臨床試験をして効能が確認された時点で、それは「食品」ではなく「医薬品」なのです。飲み物(食品)である「ふつうの緑茶」は、ウイルスに対する効果はありません(効果を言えません)。

特定の効果の表示を消費者庁に許可された「特定保健用食品」、含有成分の機能を表示できる「機能性表示食品」もありますが、これらも病名などを記載することはできません。

【基礎知識】病名や症状が書かれた「食品」は疑うべき

さて、ここまでお読みいただき、「緑茶の話しかしてないけど、どこが基礎知識なの?」とお思いの方、お待たせいたしました。

薬機法の説明にあるように、病気の治療や予防の効能・効果があるものは、すべて「医薬品」。つまり、健康食品だろうが、栄養機能食品だろうが、サプリメントだろうが、食品なのに「●●(病名・症状など)に効く」と書かれた商品は、すべて「あやしい」と疑ってかかったほうがよいのです。​

それっぽい成分名や医学用語が書いてあっても、大学教授や芸能人がおすすめしていても、鵜呑みにしてはいけません。「食品」として売っているものに、病気や症状に対する効能・効果があるはずはないのです​(仮に効果があれば、それは未承認医薬品となります)。

……長々と書いていたら、のどが渇きました。のどの渇きと言えば、お茶。
思い出したかのように書きますが、5月は新茶(一番茶)の季節です。

童謡「茶摘み」にもでてくる八十八夜は、立春(2月3日)から数えて88日目。2020年はうるう年なので、5月1日が八十八夜でした。

芽吹いたばかりの新芽で作った一番茶は、二番茶、三番茶に比べて、うまみ成分であるテアニンの含有量が多いのが特長なんだとか。

緑茶にウイルス感染予防効果はありませんが、こんなときだからこそ外出を控え、お家でゆっくりと摘みたての新茶を味わってみてはいかがでしょうか。